マキヒロチさんによる、アラサーOLが実際にあるお店で朝食を食べる…という構成のグルメマンガです。
紹介されるお店は東京中心ですが、横浜、大阪、名古屋なども登場。
「女性が抱える悩みや葛藤」と「朝ごはん」の絡め方も無理がなく、1巻より2巻、2巻より3巻と、先に進むにつれて面白く感じました。
ただ、絵柄、内容ともに人を選ぶと思います。
1巻が特に顕著で、巻を重ねるごとに良くなっていくのですが…。
※詳細は後述します。
1話を試読して面白いと感じたら購入する…くらいが丁度いいかと思います。
●出版社のサイトで第1話が試読できます
amazon ★★★(2.9)
楽天 ★★★★★(5.0) ※レビュー2件
内容紹介
朝は一日の始まり。暖かな湯気と調理の音は幸せのしるし…。
実際の朝ごはんの名店を巡りながら、俊才マキヒロチが描く女性たちの物語、スタート!!
2014年3月末時点で4巻まで。バンチにて連載中。
感想
総評としては「悪くないんだけど、人に勧めるには気になる部分が多い」作品です。
良くも悪くも、新人作家さんの成長を見守る感じ。
今回、グルメ漫画として感想を書いていますが、全体としては仕事と恋愛を軸にした成人女性向け漫画と言った方が誤解が少ないように思います。
男性向け雑誌である「バンチ」連載作品ですが、男性は楽しめるのかな?という疑問がつきまといます。
働く女性が読んだら共感できる気がしますが、描写が甘く、アラフォーな自分には納得できない描写もあります。
グルメ漫画としては、食べ方がちょっと…と思う。
巻を重ねるごとに作者の成長も見えるし頑張りも伝わるんだけど、ひっかかるところが多い。うーん。
料理漫画で近いバランスだと思うのは『おいしい関係』(槇村さとる)。
働く女性を描いた『働きマン』(安野モヨコ)や『喰う寝るふたり住むふたり』(日暮キノコ)とも雰囲気が似ている気がします。
ストーリー
28歳で中小アパレル会社勤務(MD?)の佐藤麻里子が主人公。
7年間付き合っていた彼氏との別れをきっかけに「豊かな朝食」を意識するようになります。
サブキャラクターとして、麻里子の高校時代の友達3人も登場。
BARの雇われ店長でマイペースの阿久津典子。
店を閉めて帰る途中でビール片手に朝食…というスタイル。
主婦で2人の子持ちの那須栞。
ヨガインストラクターで、食べ物もマクロビを好き、菜食中心の荒井里沙。
前半で麻里子や他のキャラクターの仕事や恋愛の悩みや葛藤が描かれ、後半に美味しい朝食を食べて気持ちを入れ替える…といった流れの1話完結型。
料理や食の描写
基本、麻里子たちが実在の店舗に足を運び、朝食を食べます。
4人で行くこともあれば、1人で行くこともあり。
店はカフェ(パン)やビュッフェが多いですが、築地で和食、横浜中華街で中華粥、タイ料理、立ち食いうどん等々、バラエティ豊かです。
地域も、1巻は東京周辺だけでしたが、3巻では大阪や名古屋のお店も登場します。
大阪の寿司。
名古屋のカフェのモーニング(小倉トースト)。
自分で作ることはほとんどないですが、1回だけ作っていました。
ベーキングパウダーや炭酸で作るクイックブレッドは簡単でおいしいですよね。
登場したお店の情報は巻末に写真つきでまとめてあります。
それとは別に、「朝時間.jp」からの朝食レシピも載っています。
気になるところ
まとめると2点。
1)展開や見せ方がワンパターン
2)食べ方が汚い
特に1巻で顕著です。
私は3巻まで一気に読みましたが、3巻では改善されています。
ただ、1巻を読み終えた時点では、正直「……買って失敗した…」と思いました。
ストーリー
特に1巻は「麻里子が7年間付き合って同棲もしていた彼氏と別れる」物語が主軸なので、主人公がイライラする場面が多く、展開も暗く重い。
更にサブキャラクターの物語も「不満の爆発」を描いたものが多く、怒る場面が多く、気がめいる。
流れとしては「朝ごはんを食べてリフレッシュ…」ですが、1巻収録の話はどれも前半は不満や怒りが描かれており、読んでいて疲れてます。
2巻以降は新しい出会いも描かれ、悩みや葛藤と笑いや希望のバランスが取れてきたように思いますが、1巻はつらい。
そして、3巻まで読んでも気になるのは「見せ方」が下手なこと。
構図、台詞、行動…。人間の描き方、見せ方が雑に感じます。
結果として、メインの女性4人の魅力が伝わってこないし、彼女たちを好きになれない。
物語の主軸が彼女たちの生き方や働き方である分、そこに魅力を感じられないと、面白く感じられません。
気になった場面(その1)
1巻で麻里子は、売上対策の為横浜の店舗にミーティングに行きます。
疲れの為、電車に乗り過ごして遅刻。
その後、店長に遅れたことを詫びてミーティング。
2人は意気投合して悩みも解決…という流れなのですが、これには納得できなかった。
「いつも通っている本社の勤務時間に遅れた」のであれば構わないのです。
周囲にいる同僚は、麻里子が毎日がんばっていて、オーバーワーク気味であることを知っているから。
でも、今回は「たまに訪れる店舗」でのミーティングの約束に遅刻していて。
本部(MD)と店舗って、上司と部下とも似た微妙な関係です。
遅刻した時点で店長が心を閉ざし、根の深い問題になる…という展開なら納得なのですが、えらい簡単に意気投合するものだなあ…と。
最終的に”何かを学んだ”という構成なのだけど、麻里子は店長に対して、自分の上司と似た対応をしていて、そこに全く気付いていない。
ご都合主義に感じますし、麻里子の学び・気付きが表面的に見えてしまい、麻里子という人物が浅く感じられて勿体ない。
気になった場面(その2)
2巻の栞についても、気になります。
今回は「人間、そう簡単に変わらないけど、ちょっとはマシになったよね」という締めだと思います。
息子に謝って一段落…の展開な時にこの場面。
作者が意図しているのは「息子がコップを倒した。いつも通り怒鳴りそうになる自分をぐっとこらえる栞」。
でも私には「栞の肘が息子にぶつかったから、コップが倒れた」ようにしか見えません。
自分の不注意に気付かず、息子の過ちと勘違いして怒っているように見える。
1度目は訳が分かりませんでした。
え?栞が息子の気持ちに寄り添って、ちょっと成長したと思ったのに、また確認もしないで怒るの??
普通、そんなオチにはしない。何故そんなオチにしたのだろう…?
最後のページを熟読した結果、「栞の肘は息子に当たってない」「コップを倒したのは息子」…であるようだ、と分かり、作者の意図するところもわかりました。
精読しないと伝わらない(誤解しやすい)構図を選んで描くのは勿体ないと思う。
キャラクターがイライラしている場面が多いせいか、読み手である自分もイライラしちゃうのもありますが、丁寧に読んでも「そうは見えない」場面が多い気がします。
気になった場面(その3)
3巻。
酔った女にゲロをひっかけられたその足で一緒に朝食…は無理があるでしょう…。
食べ物漫画でもあるし、話の展開も含めて考えた時、この描写は「必要だったのかなあ?」と疑問に思えます。
私なら家に帰らないにしても、公園か駅のトイレで足と靴を洗わなことには歩けない。
しかも、自分の大事な靴にゲロを掛けた人と意気投合できる気がしない。共感できない。
特に気になる3つを挙げましたが、作者の意図と絵や描写にズレを感じます。
それにより、伝えたいメッセージが伝わらない。誤読してしまう。
非常に勿体なく感じます。
食の描写
私は料理漫画やグルメ漫画、たくさん読んできましたが、読んで「食べ方が汚い気がする…」と思ったのは初めてでした。
これには本当に、びっくりした。
よく見ると、口に物を入れたままでしゃべったり、食べ物が飛ぶ描写が多いのです。
食事中なのに肘をついているように見えるな…とか。
特に1巻で多い表現で、2巻以降は表現が改まり、気になる描写はほぼ無くなっています。
しかし、漫画の中だと分かっていても「汚い食べ方」が気になるものなんですね…。
1つ気になると色々と気になって。
箸の持ち方、箸に沿える手の位置。食べ物を目の前にした時の姿勢。
例えば「肘をつく」にしても、居酒屋で飲んでいる場面であれば流せるのですが、ごはんに向かい合った場面では引っかかる。
「自分、気にし過ぎかな?」…と思ったんですけど、amazonのレビューに書いている人もいたので、ちょっと安心しました。
読み手は「食べ方」からもキャラクター性を受け取りますし、「行動」「言動」からもキャラクターを読み取ります。
上の「気になった場面」で描いたようなことも含め、全体にキャラクター描写が荒い気がします。
食べ方が汚いキャラクターとは、友達になりたいと思えません。
せっかく、アラサ―女性を主軸に置いた漫画なのだから、アラサー女性。だけど、こんなかわいいところがある。…と思わせてほしい。
アラばかり目立つのは寂しいです。
自分としては、登場キャラクターを好きになりたいんだけど、好きになれない。
自分と彼女たちの間に距離を感じてしまう。
好きなところ
気になる点ばかりあげましたが、主人公たちが悩み揺れながらも、自分の道を選んで日々生きている様子は悪くないです。
30歳の節目は結婚とか仕事を続けるかで揺れちゃうんですよね…。
3巻までだと、ヨガ講師の里沙の変化は素直に喜ぶことが出来ました。
里沙のキャラクターは丁寧に積み重ねて描いている印象です。
3巻で新幹線に乗り込んだ思い切りの良さには驚きました。
朝食メニューがバラエティ豊かなのはいいなあ、と思います。
食べ物の描写は丁寧だと思う。
ただ、4巻以降を購入するか?については、正直迷ってしまいます。
作品としては悪くないんだけど、今の自分には「描写が荒すぎる」と思えてしまい、色々ひっかかるのです。
巻を重ねるごとにだんだん良くなっているけれど、勿体ないなあ、勿体ないなあ、…て思いながら読むのはあまり楽しくないのです。
他にはこんな朝食本があります
あさめしまえ(北駒生)
講談社BELOVE連載中の料理漫画。
こちらは「朝ごはんを作って食べさせる」漫画で主人公は男性料理人です。レシピ付。
2014年3月末時点で1巻まで。以下続刊。
みんなの朝食日記
色々なブロガーさんの、朝食写真をまとめた写真集。
朝からこんなに食べているのか!…と驚かされます。美味しそう。