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『百合子のひとりめし』(原作:久住昌之、漫画:ナカタニD.)感想~作品の進化が楽しい三十路女性のおひとりさまグルメマンガ~

更新日:

久住昌之さん原作のおひとりさまグルメ漫画です。

主人公は30歳の離婚して間もない女性。
一言で言えば女性主人公版『孤独のグルメ』ですが、読んでいておもしろいのは、漫画として進化・成長を遂げていく様子です。

大判コミックで全140ページ、1080円です。
電子書籍の販売はありません。amazonは一時在庫切れですが楽天は販売中。増刷かかるでしょうから、少々お待ちを。

amazon ★★★★(4.0) ※レビュー3件

【内容紹介】

『孤独のグルメ』久住昌之×『リバーシブルマン』ナカタニD.の強力タッグ! 伝説のグルメ漫画が、大量の描き下ろしを加え初コミックス化! !

2004年5月~8月に、「週刊漫画アクション」(双葉社)で短期集中連載された幻のグルメ漫画『百合子のひとりめし』が、ついに初・商業単行本化決定!
30歳バツイチの、ちょっと天然系美女・象(すがた)百合子が、「ひとりめし」を通じて成長していく姿を描いた本作。
今回の単行本化にあたり、その後の百合子の姿を描いた、完全描き下ろしの新作2本のほか、ボーナストラックとして、原作者・久住昌之氏によるネームやシナリオなども特別収録。
女性の視点からの「おひとりさまグルメ」事情を楽しめる名作です!

【作品解説と感想】

メインキャラクター

30歳バツイチの象百合子が主人公。

名字が「象(すがた)」なこともあり、象が好き。
若くして結婚し、長らく専業主婦だったこともあり、外で1人でごはんを食べるには勇気がいる…という女性。

漫画の構成

マンガは1話8ページ×本編7話、描き下ろし新作2編、合計9編が収録されています。
作品内で扱われる食事のメニューはこんな感じ。

1話 新世界のハンバーグ定食
2話 ジャンジャン横丁の串カツ
3話 吉祥寺の讃岐うどん
4話 ズーラシアのピタサンド
5話 中華街のネギそば
6話 サファリパークのダチョウの串焼
7話 吉祥寺の生食行者蒜
8話 東京のタイ屋台料理
9話 牛丼店の牛すき焼御膳

久住さんのネームやシナリオも収録。
1話、6話のネーム(合計9ページ)、新作2編のシナリオ(10ページ)、新作2編の下描き(5ページ)と、24ページもあります。

最初読んだ時は「ネームにページ割きすぎでは?」…と思いましたが、細かく見ていくと作画担当・ナカタニDさんの変化が見えます。
1話での描き慣れない感じや原作者・久住さんへの遠慮が6話には消え、新作(8話、9話)ではナカタニDさん自身の脚色が作品とキャラクターの価値を高めている。
その過程が読みとれて、マンガ好きな自分にはおもしろかったです。

気になる点

先に気になる点を上げます。

1)ボリューム不足
2)作品スタイルが固まっていない

『百合子のひとりめし』は8ページ×9話を収録。
『孤独のグルメ』(新装版)は8ページ×18話、『花のズボラ飯』は8ページ×17話、『野武士のグルメ』は16ページ×9話を収録。

過去の久住作品の単行本に比べると収録話数が約半分しかないこともあり、ボリューム不足の感は否めない。
読んで物足りないと感じると思いますし、ネームにページ割きすぎ?と感じるのは本編が少ないからだと思います。

作品スタイルについては、ナカタニD.さんにとって初の原作付き漫画だったことも影響してか、試行錯誤の跡が見えて面白い反面、落ち着かない感じもあるかと思います。
私はそれなりにマンガ好きですから、作品内実験ともいえる様々な試行錯誤は楽しくもありました。
『孤独のグルメ』も3話目まで落ち着かなかったと聞くし(漫画担当の谷口ジローさんはいまだによく分からないとか話していたし)、久住さんの原作を漫画家さん自身の持ち味を出しつつ描くのには時間がかかるのかも知れませんね。

10年を経た新作2話は完成度が高いです。久住さんのシナリオにナカタニD.さんが足した部分が作品に深みを増していて、百合子がいっそう魅力的な女性に感じました。
この感じで連載してほしいなあ…。

料理や食の描写

前述しましたが、5話あたりまではスタイルが固まっていない印象を受けました。
特に1話は「お店に入って、席につき、食事と向き合うまでの精神的な葛藤」がメインで描かれ、食べ物を食べる様子はほぼ描かれません。

お店に入る時の葛藤は、女性の方が共感しやすいかも知れませんね。
1人で焼肉が食べれちゃうゴローちゃん風な男性には分からないかも知れませんが、女1人で外食する時に頭の中で考えることや悩むことって、男性とは全然違うのです。
※この感想を書いている管理人は36歳女性です。

お店の外見を見て、人が入っているか?とか中の雰囲気は??とか見て。
カフェとかコーヒーショップ、イタリアンの店は入りやすいけれど、個人経営のラーメン屋や食事処に入るには勇気がいる。

『孤独のグルメ』に近い系統で、”女性のおひとり様ごはんあるある”マンガとしておもしろいです。

ラーメン屋でも立ち食いソバでも平気、て気持ちも、30歳半ばの今ならわかる。若い時は悩んだけど、今は平気です。
1人で外食するなら家に帰って食べる、1人で入るならうどん屋、て感覚もわかる。あとはパン屋に入って隅っこのイートスペースで食べるとか…。

作中に登場した百合子の友達2人の”おひとりさま”ごはんの様子を描いたら、百合子とはまた違うと思います。

現在の私はラーメン屋も牛丼屋も入れますが、店によっては落ち着かない時もあります。
美味しいものを食べたくて入ったのに、味わう余裕がない…という雰囲気の店に入ってしまうとかなしい。
逆に、アタリの店に入ったときはとても嬉しい。

『孤独のグルメ』に似ていますが、ゴローちゃんが主人公だったら描けないであろう、女性特有の戸惑いや所作が描かれていますし、店の外観や店内の小物など、女性が見そうな細かい部分に気を使って描かれているのは流石といえます。

店内にたちこめるカレーの匂いを嗅いで、カレーうどんを注文する様子には共感を覚えました。
カレーうどんの回(3話)は伏線~オチがベタだけどおもしろかった。

主人公・百合子の食べる様子

漫画担当のナカタニD.さんが描く食べる所作は美しいですね。色気もあるしかわいいし。
百合子は食べ方がきれいな女性なんだな…と思える。

後で書きますが、ビールや水、ラーメンのスープなど、飲み物を飲む様子が印象的な作品です。ビールを飲んだ後の「ぺロっ」と舌を出す表情にはグッときました。かわいい。

1話の時点では「象が好き設定とかって必要なの?」…と思ったけれど、象を見てキャッハウフフしている百合子はかわいいです。
30歳の女性の女子っぽい雰囲気がかわいいと思えるのは私が年をとったからなのか…な…。

久住さんがあとがきに書いていた裏話に、当初の設定では主人公が”象子(しょうこ)”という名前だったと書かれておりました。
……うん。百合子にしてよかったと思うわ…。

新作2編と過去話のリンク

意図してだと思いますが、新作では旧作で使っていた演出を多用したり、対比して描かれていると思われる場面が多数あります。

わかりやすいのはこのデフォルメ百合子。
7話(旧作)では生ビールをガーッと。

8話(新作)ではタイ料理やで水をごくごくと。

7話(旧作)ではビールをグラスで。グラスの底に手を添えている感じがいいですね。
このコマの百合子はとてもかわいらしい。

8話(新作)でもグラスビールを飲んでいますが、その様子に2年を経て”ひとりめし”に対する”慣れ”が伺えます。

旧作=連載作、2004年執筆。百合子は30歳。
新作=描き下ろし、2014年執筆。百合子は32歳。

作品内の時間だけでなく、連載から10年経ったナカタニD.さんの漫画家としての進化を感じました。

試行錯誤の跡と百合子の変化

作品独自のスタイルを築こうと試行錯誤した様子が作品に現れています。
慣れもあるのか、話が進むにつれて百合子の表情のバリエーションが増えていきます。そういった変化を見るのが楽しいです。

わかりやすい例として。
百合子は「頬を両手で包み込む」ポーズが多用されています。
途中からナカタニD.さんがキャラづけに使い始めたのかもしれません。新作2話については意図的に使っていると思います。

2話の扉。

3話。どて焼きを思い出しながら。

5話。青くなったりうるうるしたり。
この辺から百合子の表情表現のパターンが増えました。

7話。照れ隠しで笑いながら。

8話。タイ料理店でごはんを食べながら、至福の表情。

9話。こちらも扉で。

食べる系マンガの決めポーズとして珍しい決めポーズですね。
ポーズ自体は同じですが、表現する気持ちが違っているあたり上手いな、と感心します。

単行本1巻分をまとめて読むと同じポーズが多用されすぎているとも感じますが、印象には残る。演出と捉えればこれはこれで効果的な気がしました。

お気に入りの話

私が一番好きなのは9話です。

9話は、33歳の誕生日の夜に1人で牛丼屋にはいるバツイチ女性・百合子の物語。
あらすじだけ読んで想像するイメージとは全然違う展開がステキでした。

描き下ろしの9話は『食の軍師』テイスト。
思い切って入った牛丼屋で、たまたま向かいに座った女性にライバル心を燃やす百合子は、勝手に”戦い”を始める(((ノ`O´)ノ 

うん。あるある……。
……(・_・)…あ、ありますよね?こういう感じ(^_^;

感想にもわざと顔文字を使ってみましたが、8~9話は台詞部分に顔文字が使われていまして。
実験的な表現なので作者の意図を拾いにくいけれど、おもしろいと思いました。百合子に”ちょっと痛い三十路”な雰囲気を出す為の演出なのかしら?(リアルといえばリアル…。私も絵文字に慣れなくて顔文字使ってる…)

ナカタニD.さんが加えた”締め”も余韻があって、最終話としてふさわしい話でした。
しかし欲をいえば、どこかで連載を再開してほしいなあ…。

まとめ

自分にとっては百合子の食べる所作と笑顔、そして作品の進化を楽しむマンガだったように思います。
単行本1冊分くらいたっぷりと新作を読みたいので、単行本が売れることを願っております。

【おまけ】久住昌之原作の”おひとりさまグルメ”マンガの系譜

『百合子のひとりめし』でビールを飲んでいる場面が印象的だったので、それぞれの作品の主人公が「飲み物を飲んでいる」場面を引用しつつご紹介。
キャラクターによって飲んでいるもの、飲み方は様々ですね。

1983年 かっこいいスキヤキ(漫画:和泉晴紀/泉正之名義)

これは読んでません。

1997年 孤独のグルメ(漫画:谷口ジロー)

ゴローちゃんが一人で外食する様子を描いたマンガ。
ドラマ化して人気を博したこともあり、amazonレビューがおもしろいことになってますね。ドラマファンとしてはそうだろうなあ。
この漫画が描かれた1997年にはまだ、新幹線の自由席に喫煙席があったのですが。時代は変わった。

ゴローちゃんはお酒が飲めないのですが、お茶にジュース、缶コーヒーに味噌汁など色々飲んでますね。

2004年 百合子のひとりめし(漫画:ナカタニD)

この作品。
『孤独のグルメ』と『花のズボラ飯』の間に位置しているんですね。

2010年 花のズボラ飯(漫画:水沢悦子)

夫が単身赴任で不在の、本屋でアルバイトしている主婦・花が適当にごはんを作って食べる、お手軽クッキングマンガ。
食べ方が汚いと評判(苦笑)なのですが、私はだらっとした雰囲気も含めて好きです。

そういえば花が外食している姿は描かれていないですね。コンビニで肉マン買ったり、パン屋さんでパンを買って食べるけれど。
久住さんは男女の食事の違いを研究して書いているのだなあ。
水道水を飲む場面は、夏の昼間の気怠い雰囲気が出てて好き。

2011年 食の軍師(漫画:和泉晴紀)

1人で勝手に、近くに座った人をライバルとして実況しつつごはんを食べるマンガ。ギャグ調でテンション高めです。

『百合子のひとりめし』9話はこの漫画がモチーフなのかな?

蕎麦屋で日本酒をグラスで、焼肉屋ではビール。うん、素晴らしい。

2014年 漫画版 野武士のグルメ(漫画:土山しげる)

定年退職したおじさん・香住武が街をぶらつきながら、ひとりごはんを食べるマンガ。一番バラエティ豊かな構成かも。
自分でカレーを作ることもあれば、甘味処や喫茶店も使うし。

百合子は「プハって言っちゃった??」と慌てていましたが、中年男性である香住さんはビールを飲んでは「ぷはあ…!」と口を拭っている気がする(うらやましい)。

幻冬舎PlusでWEB連載中。
野武士のグルメ2ndシーズン

2014年 荒野のグルメ(漫画:土山しげる)

今年から「週刊漫画ゴラク」に期間限定連載している作品。
会社で日々奮闘する中年のサラリーマンが、喧騒から離れ食事や晩酌を楽しむ姿を描くグルメマンガ。

「酒飲みの食事」と「カウボーイ」がテーマで、Twitterなどでの評判は上々でした。
さて、単行本になるのは来年か再来年か…?
久住昌之&土山しげるの食マンガ、ゴラクで(コミックナタリー)

私が『孤独のグルメ』を読んだのは大学生の頃なので、発売から1年くらいで読んだということか…。
知る人ぞ知る隠れた名作…て感じだった作品が、ここにきて人気が出て嬉しいです。

それでは~

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